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復讐の味は甘い果実に似て
第1章 終わりと始まり
 絶望のなか、恵梨のアパートを出て、僕は他に回るべきところがないかを考えた。
 恵梨がバイトしているカフェがあったな、と思い当たった。
 
 あのカフェは、委託調査のバイトで忙しくなる前は結構な頻度で利用していたし、マスターともそれなりに顔見知りだった。マスターからは、余りもののコーヒー豆やケーキを、研究室の連中で食べてくれ、と分けてもらったことも何度かあったのだ。

 恵梨がバイトしてることを考えると店にも行きづらいし、そもそも3月に卒業すれば、僕は就職先の寮に引っ越してしまうから、この街からいなくなる。
 最後に挨拶くらいしておこうか、と思った。
 恵梨のバイトは夕方からのはずなので、昼下がりの今なら出くわしたりもしないだろう。
 
 だが、久しぶりに顔を出した僕にマスターが言い辛そうに口にしたのは、またもや例の男のことだった。
 このところ、恵梨ちゃんはラケットケースを担いだ男の子とよく来ていたので、もう、とうに僕とは別れたもんだと思っていた。と。
 マスターの言葉に、僕は頼んだコーヒーに口をつけることもなく、悄然と店を出た。





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