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復讐の味は甘い果実に似て
第2章 セリヌンティウスへの宣告
翌日から、僕は再び研究室に通い詰めることにした。
何かに没頭して、恵梨のことを考えないようにしたかったのだ。
とにかくもう恵梨のことは何も考えたくなかったし、相も変わらずひっきりなしに入ってくる電話やメールは見たくもなかった。
大家さんやマスターの話を聞いた後では、なおさらだった。
恵梨は、浮気だけはしないでくれという僕との約束を裏切ったわけで、たとえ、彼女が僕に戻ってくるといっても、以前と同じように付き合っていけるとは思えなかった。
少なくとも、僕自身はもう恵梨から完全にフェードアウトしてしまうつもりだったのだ。
だが、僕の算段はいきなり崩れてしまった。
恵梨の所属するテニスサークルのメンバーを名乗る3人の女の子たちが、やにわに僕の研究室に乗り込んできたのだった。
「新田俊介さんですね。うちのサークルの水瀬恵梨のことで、少しお話したいことがあるのですが。」
メンバーのリーダーらしき女の子が、しっかりとした口調で僕に言った。
「彼女のことで、話はしたくありません。」
僕は、はっきりと拒絶の意思を伝えた。
どうせ、友情とか義侠心とかに駆られた連中だろう。
反吐が出そうだった。
恵梨本人ならともかく、なんでこんな連中に、ああだこうだ言われないといけないのか。
僕は、結婚まで考えていた彼女の浮気現場を見せられて、これ以上ないところまで絶望しているのだ。
なぜ、お前たちは、さらに人の傷を広げて塩をすりこむような真似をするのか。
お前たちにそんな権利があるとでもいうのか。
「恵梨とあなたは、もうすぐ婚約すると聞いていました。なのに、恵梨の事情も聞かず、一方的に別れるというのはどうかと思います。きちんと話をするべきじゃありませんか?」
目の前の女の子は僕の意思など無視するかのように、さらにたたみかけてくる。
思わず、馬鹿馬鹿しい、と吐き捨てそうになった。
一体、何を話すというのだ?
彼女は僕を裏切り、僕はそのことを知ってしまった。
事実はそれだけだ。
それ以上、何を聞くことがある?