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復讐の味は甘い果実に似て
第9章 さよならという儀式 ~ひかるの告白~
3月に入って、ようやく寒さが緩みはじめたころ、先輩から2泊旅行についてのメールが届いた。
今度は、海辺の温泉街のコテージらしい。
しかも、部屋には個室の露天風呂までついているとか。
それだけ聞くと楽しそうなのだが、あたしは何か釈然としないものを感じていた。
多分、先輩は、恋人として、恵梨と行きたかったんだろうな、と思う。
さよならをするための舞台として、ではなく。
あたしにも、少しだけ心境の変化があった。
合宿で明日香と飲んでいた時には、お酒の勢いもあり、
「あたしたちを巻き込んでおいて、恵梨を吹っ切れないなど許せない。目の前で、きっちり別れてもらおう」
などと、意気込んでいたはずなのだが、日が経つにつれて、あたしはどうも余計なことをしたのかな、という気がしていた。
もちろん、悔しい気持ちはあるし、それは間違いないけれど、先輩がどうしても心の中の恵梨を消せない、あるいは消したくない、と願えば、あたしや明日香は諦めるしかない。
大方のカップルの最後というのは、結局、どちらかが別れがたい気持ちを押さえて、苦しみながらも、心のなかの相手を古傷のように抱えて、一人に戻るのだと思う。
その意味では、先輩もまた、そう簡単に、心の中の恵梨を消すことはできないのかもしれない。
どれほど恵梨の裏切りに憎しみを感じても。
どれほど怒りの炎に心を焦がしても。
そして、どれほど残酷に復讐しても。
むしろ、先輩は、自分の心のなかの恵梨の存在が大きいからこそ、あんな酷い復讐を考えざるを得なかったのだ、と思う。
あたしは、もう、そっとしておいてあげた方がいいんじゃないか、という気もしていたのだ。