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復讐の味は甘い果実に似て
第1章 終わりと始まり
 もっとも、僕が浮気とか不倫とか、そういうものに過剰に反応してしまうのは、恵梨の環境よりも、僕の家の事情に拠るところが大きいかもしれない。

 僕の両親は、僕が14歳の時に離婚していた。
 父は最後まで離婚の理由をぼやかしていたが、それが母の浮気によるものであることは明白だった。地元の土建屋で事務の仕事をしていた母が、ある日を境に、残業を理由に夜遅く帰宅するようになったからだ。

 そして、離婚が成立すると、母はあっさりと僕たちの家を出ていった。
 母が家を出て行った夜のことは、今でもはっきりと覚えている。
 家の前に見慣れない車が停まり、エンジンをかけたままにしているなか、玄関に背を向けて膝の上で拳を震わせている父に、母は「今までお世話になりました」と声をかけ、トランク一つを持って車の方に歩いて行った。

 その時、僕は、それまで母さんという人間に対して抱いていた、ありとあらゆる感情が急速に冷めていくのを感じた。
「……ああ、あれは僕の母さんじゃない。僕の母さんはもう、死んだんだ。」
 その夜以来、僕は、その人のことをそう思うことにしている。

 その後、高校や大学に進学する都度、「かつて母さんだった人」から会いたいという話がきたが、僕はすべてを断ってきた。これから先も、その人に会うことはないし、その人が僕や父にしたことを許しもしないだろう。

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