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銀行員 有田雄一、私は「女」で出世します
第10章 奇跡の逆転ホームラン!

「何かありましたか?」
「いや、支店長の電話、しきりに『有田君が』、『有田君が』って言ってたぞ」
「俺も聞いた」
「うん、俺も」

成績の上がらぬ輩はいつも人事部の電話に敏感だ。有田は「他人事だと思って」とやや不貞腐れ気味に、「そうですか。でも、私は何も言われてませんけど」と答えると、
「そりゃあそうだよ。人事ってのは決まるまで、絶対に秘密だからな。じゃあ、お先に」
としたり顔で先輩たちはコーヒーを飲んでいた。

そして、「さあ、行きますか」、「おお、そうだな」と一人、二人とコーヒーを飲み終えた営業マンたちが消えていく。最後まで残っていた最古参の先輩は、「まあ、地方店も悪くないさ」と縁起でもないことを言い残して出て行って。

全く勝手なことばかり言って…有田もタバコの火を消すと、営業カバンを持って立ち上がった。が、その時、プルプルとスマホが鳴った。副支店長からだ。

しかも、それに出ると、「有田君か?直ぐに店に戻って来い」とだけ。

いよいよ本当に地方店に転勤なのか?

有田はコーヒー代を払うと、憂鬱な気分のまま、店に戻って行った。
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