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銀行員 有田雄一、私は「女」で出世します
第11章 はなむけの言葉は「色の道」
≪おこぼれも豪華≫

「あれ、休みか?」
「金曜日なのに、おかしいですね」

ネオンが消えている白山のスナック「笑み」の前では、副支店長と榎本課長が残念そうに中を覗き込んでいた。

「まあ、仕方がない。別の店に行くか」
「タクシーを捕まえましょう」

寒空の下、二人はタバコを口に咥えて、プカーと吹かしていた。

「しかし、世の中、分らないねえ。有田が浅丘流との取引を獲得できるとは」
「全くですよ。あの野郎、ぷらぷら遊んでいるようにしか見えないのに」
「ははは、本当に」

いつもの通り、榎本課長は有田をこき下ろしていたが、副支店長は美味そうにタバコを吸っている。

「だけど、榎本君、良かったじゃないか。これで君も副支店長資格への昇格が決まったようなものだ」
「え、あれ、そうでしょうか?」
「ああ、間違いない。これ程の案件を有田一人で仕上げたとは誰も思わない。営業統括部も人事部も、榎本君、君の功績を一番に評価するよ」

副支店長が気持ち良さそうにタバコを吸い込むと、「いや、それは副支店長のご指導あってこそですよ」と榎本課長はご追従を忘れない。
そして、こっそり仕入れてきた人事話で副支店長を持ち上げる。

「ところで、副支店長、あの、ロサンゼル支店長の内示があったそうですね」
「え、どうしてそれを…いやあ、まいったな。もう、漏れているのか?まずいな…」

言葉とは裏腹に、副支店長も「よくぞ聞いてくれた」と満面の笑みだ。

「さあ、副支店長、今夜はお祝いですよ。私の知っている店に行きましょう」
「いやいや、今夜は私がご馳走しよう。おーい、タクシー!」

豪華なおこぼれに預かった二人を乗せたタクシーは銀座に向かって走り出した。
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