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銀行員 有田雄一、私は「女」で出世します
第5章 銀行との取引も、「男と女」も、決め手は「好き・嫌い」
「あ、ダメ、禁煙」
「あ、ケチ!」
「さあ、続き、続き」
「せっかちねえ。そこでうちのダンナが、『是非、私の店に来て下さい』ってお願いしたのよ」
「小鹿さんもやりますねえ」
「いつもは騙しばかりなんだけど、今回はマジで対応してくれて、いい出物を吉田さんに見せたのよ。そしたら、『これは素晴らしい』って、唐津焼だか、よく分からないけど、すっかり気に入って、ダンナと意気投合しちゃったのよ」
「へえ、そうなんだ」
有田は感心した振りをしたものの、話がなかなか本題の取引に繋がらないので、ちょっとイラつきが出てきた。
「ふふふ、何、イラついているのよ」
「あ、いや、バレちゃうなあ、久美子さんには」
「ここからなのよ。ダンナの上手いところは。一杯やりましょうって、知り合いの小料理屋に行って、そこに河口さんを待たせっておいたのよ」
「えっ、河口さん?」
「そうよ。こういう時は『花ユリ学園理事長』の肩書が役立つのよ。『この間はどうも』なんて言いながら、『有田君は元気ですか?』ってあなたのことを話題にしたのよ」
「私のことを?」
「そう。吉田さんが『お知り合いですか?』って聞くから、ダンナは『骨董を勉強したいって弟子入りした男です』って、全くうまくウソをつくのよね。河口さんも『いい青年ですよ』とフォローして」
「騙しのプロですね」
久美子は「ほんと」と言って有田に取り上げられたタバコをふぅーと吹かした。