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銀行員 有田雄一、私は「女」で出世します
第8章 縄秀と看護師
≪大変な仕事ですな≫

「ところで相談っていうのは何かな?」

場所を奥の座敷に移し、着物に着替えた金沢医師こと縄秀は雪乃を侍らせご機嫌だ。

「実はな、有田の仕事のことなんだ」
「そうか。まあ、一杯いきませんか」
「おお、悪いな」

小鹿は縄秀に勧められ酒を一口含むと、「旨いっ」と唸った。

「いい酒でしょう」
「ああ、旨い」

縄秀は空になった小鹿のグラスに酒を注ぐと、話を元に戻した。

「有田君って、サラリーマンでしょう?」
「そうなんだよ。あいつ、あれでも大手銀行の東西銀行に勤めているんだよ」
「ほお、大したもんじゃないですか。根っからの遊び人じゃないとは思っていたんですが」

縄秀もグラスをグイッと空けた。小鹿はそのグラスに酒を注ぐと、「せっかくの酒なのに。こういうことなんだが」と前置きして、「彼の今期の目標が日本舞踊『浅丘流』及び家元の浅丘正巳との取引獲得で、それができないとクビになる」と、有田が話した通りに縄秀に伝えた。

「ははは、それは大変な仕事ですな」

縄秀はどこまで真面目に聞いているのか分らない。右手で酒を飲みながら、左手は雪乃の着物の裾を掻き分けている。

「あ、先生、エッチなんだから」

雪乃はさっと着物の裾を合せながらも、縄秀の左手をぐっと中に引き込んでいた。さすが、現役のマクラ芸者だ。

「いいねえ、この柔らかいの。おや、おひげが、ははは、やっぱり、雪乃ちゃんだなあ」
「あん、いやだあ、そんなこと言っちゃあ…」

しなだれかかる雪乃を抱き寄せた縄秀の顔は崩れっぱなしだ。
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