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銀行員 有田雄一、私は「女」で出世します
第9章 難攻不落の浅丘流本部
車はガードマンに一旦停められたが、「金沢です!」と縄秀が元気よく挨拶すると、「あ、先生、どうも!」と鸚鵡返しの返事。面会の予約チェックなどもせずに通してくれた。
「さすがだなあ」
「ははは、医者になって良かったと思うのはこういう時だけさ」
小鹿の冷やかしに照れ臭そうに笑う縄秀はやはり「小児科医 金沢秀夫」に間違いない。
そして、会館正面の玄関に着くと、秘書に「先生、お家元がお待ちです」と奥の私邸に案内された。
「私たちのような客は会館には用はないんだよ」
縄秀はそう説明してくれたが、確かにそうだ。正統な日本舞踊の総本部、しかも女性の多いところで、エロ遊び仲間などあり得ない。
通されたのは20畳ほどの応接間。
「あれ、浅丘先生よ」
風間さんが指差したのは、スーツ姿のメガネを掛けた大学教授のような顔立ちの男の写真
「あの顔立ちで独身、それが縄秀と遊ぶのか…ほんとに家元っていうのは大変なのか?」
沢山のエロ遊び仲間を知っている小鹿も信じられないと首を捻っていた。
そこに浅丘正巳が現れた。
「金沢先生、いらっしゃい」
「お家元、今日はすみません。お忙しい中、お時間頂いて」
「ははは、まあ、どうぞ、お楽に」
本物は鉄紺の羽織にグレーの着物、背丈は170cmくらい、小柄だが写真よりも若々しく見える。
「格好いいなあ…」
有田は思わず唸ってしまった。だが、そこは応接間。「おや、どうかしましたか?」と彼に聞こえてしまった。