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⊥の世界
第11章 だから今夜も
寝室を別にした3年前くらいから、夫の帰りは益々遅くなっていった。
ちょうど管理職になったというのも事実だろうけど、浮気や不倫、女性の影は見受けられないけど、あえて残業して食事を済ませ、私が寝るのを待って帰宅しているように感じる。
今日も何も連絡がないから、きっと終電での帰宅だろう。
だから、⊥の世界に私は行く。
昼間、Sさんからの励ましの言葉が嬉しかった。
無理はしなくていいと言われたけれど、せっかく拓いた新しい世界に、自分の居場所を作りたかった。
20時には全ての用事を済ませ、自室に隠りパソコンを立ち上げる。
入室ボタンをクリックするとわらわらと住人も入室してきた。
今日は水曜日、皆さん比較的入りやすい曜日らしい。
『こんばんは。』
「こんばんはー、Mちゃん今日は何してた?」
「俺なんか会社の飲み会断ってここに出勤した。」
「おいおいA氏、ここは会社じゃないんだから、帰宅したにしろよ。」
「そうだな、ここはM子の家なんだから、『こんばんは』じゃなくて『ただいま』って帰ろうぜ。」
「いいけど、多夫一妻?一妻多夫?」
「いやA氏は子供役じゃないの?」
「え~、僕も夫役がいい~。M子ちゃん、定番の台詞言ってよ~。
あなた、ご飯にする?お風呂にする?それともワ·タ·シ?
ってさぁ。」
『あ、あの、皆さん、おかえりなさい。』
「M子ちゃん、本当に恥ずかしがりだね。」
「てか、それともワタシ?なんて古すぎるだろう。」
ワーっと書き込みが増え、全員が入室していた。
「あの、俺、皆さんに話がある。」
「なになに?Eさん。」
「俺、今日で引っ越すってか、退会する。」
「退会?なんでだよ。」
「M子ちゃんのせいじゃないから、気にしないでほしくて、あえて宣言するんだけど。
仕事忙しくて俺あまり入室できないから、家賃払えなくなりそうで。」
「あ~それは仕方ないね。」
「せっかく入居させてくれたM子ちゃんには本当に悪いんだけど、これで退会するね。」
『Eさん、残念ですが、仕方ないことですものね。あまり上手くお話できなくてすみません。』
「だから、M子ちゃんのせいじゃないから、ごめんね。もう抜けるね。」
書き込みに返事をする間もなく、
【Eが転居しました。】と運営からのメッセージが会話の中に表示された。