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⊥の世界
第12章 そして誰も居なくなる?
「うん、また明日。」
「おやすみなさい。」
「Mちゃん、明日は昼来れる?」
『たぶん来れると思います。ではおやすみなさい。』
今日は普通に挨拶して退室することが出来た。
二人の住人が転居してしまったことは、寂しいけど仕方ない。
そして、やはり当分入居者を募集するのはやめた。皆さんと話しながら入居審査をするなんて私には無理だから。
「○○さん、あの方ほとんど毎日来館されてますよね。」
「あ、そうですね。余程本が好きなんですね。」
あの事件後、人と話すのが辛くなり、学生時代はなるべく人と関わらすに過ごした。
人と話さずに出来る仕事、私はそれを条件に仕事を考えた。
念願通り、司書の資格を取り図書館で働いた。
同僚も少ない人数だし、基本静かにする場所。
貸出、返却の手続きなども大抵決まった言葉のやり取りで済む。
たまに在庫の確認や、棚の場所などの質問はあるけど、それにしても受け答えは一定のやり取りで済む。
それに自分自身、本が好きだった。
本の整理や、補修、新刊の注文など裏方の仕事を率先して従事していた。
他の司書さんも女性が多いし、窓口にいる間は雑談をする隙はあまりない。
とても自分に向いている仕事だった。
夕方から閉館までは、来館者も少なくなる。パート司書のおばさまは、この時間に窓口に入ることが多く、よく一緒に窓口に立つ、手続きの合間に話しかけられることがあった。
来館者の方も、夕方以降の顔ぶれはおおよそ一緒なんだとわかってきたころ、パート司書さんに話しかけられた。
確かにその来館者は、サラリーマンで、3日と開けることなく来館されている。
必ず一冊を館内で読み、一冊を借りていく。
借りた一冊を読み終えると来館するのか、仕事帰りに立ち寄るようで、3日と開けずに来館するのだ。
夕方以降の顔ぶれは、学生さんが勉強スペースに使うことが多い。
サラリーマンの方も来られるけれど、大抵が沢山借りて期限いっぱいに返却に来るといったペースなので、そのかたはかなり目立っていた。
本当に本が好きなんだろうなと思っていたけれど、話題になることはなかった。