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レディー・マスケティアーズ
第2章 プロローグ ――六月二十日
人気のない深夜の街にサイレンの音が響き、何分としないうちにそれを聞きつけた野次馬たちが集まってきた。警官たちの手で貼られた「周辺立ち入り禁止」の黄色いテープが、パトカーのライトに照らし出される。
雨で濡れた鋪道の敷石には、どす黒い血だまりができていた。ビニルシートをかけられた人の体。元は人であったろうその塊の一部、白い片足の先がシートからはみ出ていた。
「飛び降りたのかしらね」
「さあ、突き落とされたのかもしれない」
「じゃあ、殺人事件じゃない」
黄色いテープの向こうで、傘を差した二人連れの女が声をひそめて言う。どちらもパジャマの上にトレーナーやガウンを羽織っただけという恰好だ。騒ぎを聞きつけた近隣の住人に違いなかった。二人が揃って見上げた先には、レンガ色のマンションがあった。
周囲でも一段と高くそびえる十階建てのマンション。死体になる前のそれが、そこから下に落ちたのだろうと決めつけているかのような目だった。事実、「POLICE」のジャンパーを着た警官たちや救急隊たちが、「パークサイド・パレス」とプレートのあるマンションに出たり入ったりして、慌ただしく動き回っている。
場所は江東区住吉五丁目。
六月二十日に日付が変わった午前二時の惨劇だった。
雨で濡れた鋪道の敷石には、どす黒い血だまりができていた。ビニルシートをかけられた人の体。元は人であったろうその塊の一部、白い片足の先がシートからはみ出ていた。
「飛び降りたのかしらね」
「さあ、突き落とされたのかもしれない」
「じゃあ、殺人事件じゃない」
黄色いテープの向こうで、傘を差した二人連れの女が声をひそめて言う。どちらもパジャマの上にトレーナーやガウンを羽織っただけという恰好だ。騒ぎを聞きつけた近隣の住人に違いなかった。二人が揃って見上げた先には、レンガ色のマンションがあった。
周囲でも一段と高くそびえる十階建てのマンション。死体になる前のそれが、そこから下に落ちたのだろうと決めつけているかのような目だった。事実、「POLICE」のジャンパーを着た警官たちや救急隊たちが、「パークサイド・パレス」とプレートのあるマンションに出たり入ったりして、慌ただしく動き回っている。
場所は江東区住吉五丁目。
六月二十日に日付が変わった午前二時の惨劇だった。