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レディー・マスケティアーズ
第2章 プロローグ ――六月二十日
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二十日の朝には、「都内江東区住吉公園付近のマンションから転落した女性の死体が発見され、警察による捜査が進んでいる」というニュースが流れたが、死体については「二十代の女性」という程度の説明しかなく、名前はもちろん、それ以上詳しい情報は突き止められていなかった。
死んだ女性が、都内のシステム開発会社に勤める桜井美里(二十三歳)と判明したのは、事故の三日後。秋田出身で、この春に都内の大学を卒業したばかりの彼女が、就職してわずか二か月後に謎の転落死を遂げたという事実も明らかになった。
美里が転落した高層マンションは、会社が社員寮代わりに数部屋を所有していたものだが、今年に入って彼女以外にそこにある部屋を利用していた社員はおらず、社員以外にもその時間帯に美里を見かけた者は誰もいなかった。
アイドルと言っても通りそうな可憐な容姿の美里のスナップ写真が紹介されるや否や、週刊誌はこぞって「美人独身女性、謎の転落死」と書き立てたが、その狂想曲も一月ほどのことで、進まない捜査と相まってか、事件は人々の記憶の片隅へと追いやられていった。