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もうLOVEっ!ハニー!
第10章 甘い笑顔と花束

 チャイムが鳴り響いたのは、神様がいい加減にしなさいとでも諌めているかと思いました。
 四人がスピーカーを一瞥する。
 アリスは一瞬を突いて、私のもとに走り寄ると腕を取った。
「行きましょ、かんなちゃん」
「あっ、おい」
「てんめっ」
 美弥と尚哉が手を伸ばした時にはもう、移動生徒が廊下に満ちて来ていた。
 アリスは不敵に笑って背後の二人に手を振る。
「先輩方は階が違うじゃないですかー。五限始まっちゃいますよ」
 正論です。
 黒髪を靡かせて走るアリスに必死で生徒の合間を付いていく。
「かんなー!」
 美弥さんの叫びも遠ざかる。
 ごめんなさい。
 なんか多分全部私のせいです。
 よくわからない状況で困惑してますが。

 軽やかに階段を賭け駆け上がり、やっと立ち止まりました。
「はっ、はっあ……アリスさん?」
 振り向いたアリスが手を伸ばし、頬に触れた。
 近づいてきた顔に、俯いてしまう。
 こつ、と額が当たった。
「襲ったりしないわ。貴女とキスだけはするけど」
 ハッと目を開けると、同時に唇を舐められた。
 声にならない悲鳴が脳に響き渡る。
 ローズの香りがする。
「じゃあ、そういうことで」
 颯爽と去っていったアリスを見送る。
 な、なんて人ですか。
 唇を指で押さえる。
 まだ、背中が熱い。
 それにしても、靴箱への悪戯は御巫アリスではなかったのですね。
 これで、村山薫に確定ですかね。
 とりあえず教室に……
「なんだ、今のは」
「ひっ、つばる」
 無表情でアリスの教室の方を睨んでいる。
「お前さあ、本当に自己防衛っての知らないな」
「なっ」
 スッと顔を引き寄せられる。
「あいつ、レズでかなり有名だったらしい。警戒しろよ」
 なんで、それ……
 唇をむに、と指で挟まれる。
「んむっ?」
「簡単にキスされてんじゃねえよ」
「にゃめらえはらえれすっ」
 離せよですよ。

 五限は地理。
 黒板に書かれたヨーロッパの地図をぼんやり眺めながら、ノートに用語を書き写していく。
 そっと、目だけで薫の方を確認する。
 腕を机にもたれかけて、辞書で何かを調べている彼女を。
 御巫アリスとの関係性は窺えないですよね。
 なら、傘への細工をしてたのも、今朝ロッカーに両面テープを敷き詰められていたのも薫の仕業、もしくは指示なのでしょうか。
 にしてもテープは厄介でした。
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