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もうLOVEっ!ハニー!
第11章 写りこんだ隣の姫様
つばるが目を見開いて、急いで手を離した。
「……わり。一応あんま近づかねえようにしてんだけど」
「え」
自制するように震えた手で口を押さえる。
開いた瞳孔がぎこちなく彷徨う。
「頼むから、あんまふらふらすんな……ガク先輩に管理人に美弥先輩、他にもいんのか知らねえけど。疲れたとか言って曖昧なこと続けんな。見ていて苛つく」
「なんでつばるが」
「言われなきゃわかんねえの?」
喉が震えて、声が上擦る。
ぐらりとつばるの上体がこちらに傾いたかと思うと、両肩を掴まれた。
ぎちりと爪が食い込む。
「いっ……」
「俺がマジで約束守って手出してないとでも思ってんのか」
眼が見られない。
見てしまったらフラッシュバックの恐怖で気絶してしまいそうで。
私にとってのつばるがどれかわからないから。
クズ呼ばわりしていた意地悪なつばるなのか、ハンカチを渡してくれたぎこちなく優しいつばるなのか、今の……
「目を逸らすなっ!」
怒号が反響する。
ぎゅっと閉じた眼から涙が落ちた。
息も止めて逃げてしまいたい想いと戦う。
「お前なんで……助け求めないの」
滲んだ視界につばるを見る。
「ここでも同じか」
「つばる……?」
「なんか俺、お前と会うとどっちか怒ってばっかだな」
苦笑いして、私から離れる。
どうしてそんなに淋しい顔して。
卑怯です。
私が悪者みたいじゃないですか。
泣いてるのは私なのに。
つばるが教室から一歩出る。
「じゃーな」
振り向けないまま、鼓膜にその声が染みついた。
携帯。
電話。
着信履歴。
誰か。
頼れる人。
いるわけないのに。
家族も名前を探して。
「う……」
涙をはしたなく零しながら玄関を出る。
過去の私が嘲笑ってる。
何がそんなに悲しいの。
貴方を今いじめるものは何もいないのに。
そんなにも恵まれている癖に。
何をそんなに悲しんでいるの。
ばかんな。
「うるさいっ」
頭を抱えて校庭に飛び出す。
神様私に愛をください。
そう願ったのは私です。
でも、愚かな私には、複数の愛から選択することなんて出来ないのです。
美弥さんに会いたい。
きっと抱きしめてくれる。
その代わりに美弥さんを傷つける。
ガク先輩に会いたい。
きっと笑わせてくれる。
その代わりに罪悪感に苛まれる。