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もうLOVEっ!ハニー!
第11章 写りこんだ隣の姫様
陸さんに会いたい。
きっと優しく頭を撫でてくれる。
その代わりに薫の存在を強く意識してしまう。
隆人さんに会いたい。
きっと穏やかに話を聞いてくれる。
その代わりに鳴海先生に申し訳なく思えてしまう。
尚哉さんに会いたい。
きっと、ぶっきらぼうにどこかへ連れ出してくれる。
その代わりに目を合わせることなんて出来ない。
こばるさんに会いたい。
きっと沢山笑顔を引き出してくれる。
その代わりにつばるの淋しい顔を思い出してしまう。
お母さん……
お姉ちゃん……
会いたくなんてないのに。
あの家が、とても魅力的に胸を開いてくれている気がする。
錯覚なのはわかりきってるのに。
奈己先輩。
寮の入り口に着いて、脳に浮かんだその名前の主が、そこに立っていた。
「おかえり。お嬢さん」
「先輩……」
小さく微笑んだ奈己が差し出した手に縋りつく。
細くて大きくて冷たい手が、唯一の拠り所のように思われて。
「どうしたのですか」
「私、どうしていいか……わかんなくなっちゃって」
ぽん、と背中を撫でられる。
この人の声は低く響き渡って落ち着く。
白に近い銀髪が風に揺れる。
「なる先生のとこでも行きます?」
無言で首を振る。
「じゃあ……僕の部屋においで。今は亜季ならルカと出かけてるから」
「先輩、二人を待ってたんですか」
「んー。今見送ったところって感じですかねえ。ルカの撮影が歩いていけるスタジオでやるらしくてね。亜季がどうしてもって付いて行ったんですよ」
「先輩は」
「僕は行く理由がないから」
虚しそうに呟いて、上階へと促した。
二人部屋に入るのは、初めてでしょうか。
歓迎会の時はこばるさんの広い部屋で。
あれ。
そのあと誰かの部屋にも入りましたよね。
記憶がはっきりしません。
「顔、洗います?」
「すみません」
鼻を啜って、洗面所を借りる。
タオルを持ってきた奈己は、すぐに沸かしたお湯で紅茶を淹れた。
窓際の椅子に座らせてもらい、奈己はベッドに腰かける。
熱い紅茶を一口胃に下らせると、少し気分が落ち着いた。
「誰にもまだ返事してないって?」
「……よく知ってますね」
「一応これでも情報には通じていますからね。君が仕掛けたカメラの映像も全て見させていただきましたよ、かんなちゃん」
その笑みが怖く歪んだ。