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もうLOVEっ!ハニー!
第11章 写りこんだ隣の姫様

 奈己の眼を見つめ返すと、耳の裏がじわりと熱を籠らせる。
 きっとこの寮に来なければ関わることのない美しい人だから。
 この距離感が違和でしかなくて。
「……奈己、さん」
 白い手が顔に近づき、つい避けてしまう。
 奈己は拒否された手を掲げて笑ってみせた。
「ほら、簡単でしょう? 求めているか、求めていないかなんて。君は今、僕を拒絶しました。消去法で良いじゃないですか。思い返してください。差し伸べられた手を、拒否しなかったのは、誰に対してでしたか」
 この人は……
 ストンとナニかが胸の底に落ち着いた。
 拒否しなかったのは……つばるのハンカチと、美弥さんのシャワー室での抱擁と、ガク先輩の、尚哉さんの……
 首を振る。
「ダメ、みたいです。私、受け入れてしまうんですよ。拒否なんて、してなかった」
「ならば比べてみましょうか。誰の手が、一番心地よかったかなどは?」
 心地よさ。
 そんなの、考えたことありませんでした。
「誰になら、手放しに身を預けられるか。預けたいと思うのか。誰のためなら尽くせるか。判断基準は無限とありますが。少しずつ誰かを選ばないとですね」
 奈己が手を突き放すようにして身を下げる。
「君は複数を相手に出来るほど、強い女の子ではないから」
 どの言葉も鋭く胸に刺さりましたが、最後のその台詞が重く沈んでいきました。

 部屋の鍵を取り出しながら廊下を歩く。
 美弥の部屋を過ぎ、つばるの部屋のシンプルな扉を眺める。
ー俺がマジで約束守って手出してないとでも思ってんのかー
 なんで、あんなこと。
 中途半端に。
 やめてほしい。
 どうせなら虐め抜いてほしい。
 そしたら嫌いになるから。
 消去するから。
 あれ。
 変ですね、私。
 とっくに消去したんじゃなかったの。
 それ以前に、選択肢に入れてたの。
 あの、つばるを?
 鍵を差し込み、緩慢に回す。
 きっと、尚哉さんが良いんです。
 ありのままの私を、受け入れて、愛してくれるはずだから。
 私を汚した存在を殺してやりたいとまで言ってくれたのだから。
 優しくて、不器用で、全く好意に気づいていなかったけれど、一度見てしまえば無視はできない。
 尚哉さんを選べたら。
 ベッドに脛をぶつけて倒れ込む。
 いっそ、もっと、簡単に。
 からだの相性だけで決めてしまえたら。
 どんなに、楽か。
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