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もうLOVEっ!ハニー!
第11章 写りこんだ隣の姫様
そんな黒い思い付きで、私は尚哉さんの部屋の前に立っていました。
何をしに来たのか、考えないようにチャイムを鳴らす。
確か、両隣が空き部屋。
この寮は本当に部屋数が多い。
足音が近づき、黒い影が地を舐める。
すぐに解錠の音がして、扉が内側に開いた。
「どした……かんな」
黒いシャツに、紺のステテコ。
眼鏡はたった今つけたばかりのようで、位置を指先で調整している。
「あ、こんばんは。今、大丈夫ですか」
「中、入んの?」
こくりと頷くと、尚哉は更に扉を開いた。
革のソファの薫りがする。
そっと足を踏み入れると、背後の空間が閉じられた。
先に部屋に戻った尚哉がガチャガチャと物を整理する音が聞こえる。
「すみません、突然」
「いや、いいけど。人あんま入れないから色々酷いと思う」
シックな本棚に並んだCD、雑誌。
白い壁にはポスターが美しく配列している。
大きなスピーカーがテレビの脇に並び、傍らには手毬のものよりも高価そうなヘッドフォンが置かれている。
ベッドはソファーベッドらしく、それがブラウンの革で覆われており、それが部屋の香りの正体だと気づく。
ガラスのテーブルの上にはたった今まで作業していたであろうノートと筆記用具がひとまとめにされている。
「何か、書いてたんですか」
それを指差すと、尚哉は口を押さえて小声で恥ずかしそうに呟いた。
「……歌詞。今、作詞コンテストあるから」
「コンテスト?」
「気にしなくて良い。俺、中学の時からこういうの応募してたけど、二回くらい賞取ったから続けてるだけ」
ここで見せてください、は図々しいですよね。
床に腰を下ろした尚哉に座るよう手で煽られて、ソファーに腰かける。
乱れた布団がすぐそばにあるのが、生活感を感じてどぎまぎしてしまう。
「で、どうしたの?」
ぶっきらぼうでも、優しい声。
「えと、会いたかったんです」
確かめるために。
尚哉がぴくりと顔を上げる。
今の発言をもう一度求めるように。
私は股の上で手を組んで緊張を紛らわせる。
「尚哉さんが、喫茶店で言ってくださったこと、本当に嬉しかったです。本当に……」
「そうか」
素っ気ない返事に反応を窺うと、尚哉は赤くなった頬を腕で隠していた。
どこまで純粋なんですか。
こちらまで恥ずかしくなってしまう。