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もうLOVEっ!ハニー!
第16章 台風の目の中

 指先に引っかかるリングを何度か撫で直してから、岳斗はため息を吐く。
「隆にい、遠恋経験ある?」
「なに、いきなり」
「いやー。卒業したら嫌でも離れるやろ。同じ市内で通える大学もないしな。毎日会うなんて無理。早すぎてアホやけど、心配」
 あまりに可愛い発言に笑いが吹きでそうなのを、何とか留めて表情を作る。
「まだ八月だよ」
「受験期の半年は人生で一番短いて」
「校長の受け売りだ」
「朝礼はちゃあんと聞く派なんで」
「ただでさえ、ちょっと不安な相手だもんね」
 おっと。
 つい禁句が。
 岳斗が分かりやすく目の色を変えて近づく。
 椅子に座ったまま、隆人は見上げる。
「心当たりがあるん?」
「そうだね。数あるライバルのうち、諦めたのは何割かなって考えたりするだろ」
「しんど」
 心底嫌だという顔でその場でしゃがむ。
 同じ目線になり、岳斗の隈に気づく。
「寝不足?」
「旅行計画で」
「他にも理由があるでしょ」
 ガシガシと短髪をかき上げてから、言いたくなさそうな薄い唇が開く。
「考えたくないことばっか過ぎって寝れん」
「たとえば?」
 カウンセリングモードに入る。
 管理人室は一階の住人からも離れた配置なので、他の生徒に聞かれる心配は無い。
 岳斗も溜めていたのか、いつになく覇気のない声で続ける。
「清がちょっとおかしくて」
 予想外な名前の登場に隆人が眉を上げる。
 つばるでもなく、アリスでもない。
 峰清龍?
 かんなと接点などないはずの彼が。
「気のせいにしては避けられすぎとって」
「まあ恋愛が友情を変えることはよくあるよね」
「理由を聞くんも野暮やろ」
「そうだね。知らぬ存ぜぬで続けてくしかないんじゃないかな。耐えきれなかったら聞いてもいいだろうけど」
 その間も記憶を巡らせる。
 バスケ観戦の時には話していた様子だったが、キャンプの時もほとんど接点がなかった。
 一体いつ感情を抱いたのだろう。
 岳斗が立ち上がり、深く息を吸う。
「長居した。あんがとさん」
 そもそもアドバイスを貰う気で来た訳では無いのだと思い出したかのように、足早に扉に向かう。
 出ていく直前に、岳斗は何かを閃いたようだった。
「そや、美弥と話しとったな……」
 それが何を意味するかまではわからなかったが、隆人は閉まった扉をザワつく心で見つめる。
 知られる訳には行かないな、僕の愚行も。
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