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もうLOVEっ!ハニー!
第17章 深い底まで証を
カフェを出て、電車に乗り、満員の車内で他の客に当たらぬように壁になる。
俯くかんなを見下ろして、何から話せばいいかを考えて数十分。
電車の振動を、つり革片手に流しつつ。
当たり障りのないバイトの話で長引かせて。
寮の最寄り駅に着き、改札を出てから手を繋ぐ。
握り返してくる力のあまりの弱さに、本音を話せない心境を汲み取る。
不安になる一方で嫌になる。
門をくぐり、寮ではなく部室棟に連れ出す。
「帰らないんですか」
「帰りたないやろ」
手は繋いだまま。
バスケ部の部室を通り過ぎて、幽霊部員だけの茶道部の鍵の壊れた扉を開ける。
ホコリの臭いに顔をしかめつつも、端に位置するこの部屋は滅多に人が来ないのも承知済み。
机の下から丸椅子をふたつ引き出し、かんなにも座るように手で招く。
「俺が入学した時から廃部同然でな。クラスメイトがサボりに使っとるんよ」
タバコの焼け跡が残るテーブルを撫でて、かんなは無気力そうに頷く。
さて、と。
岳斗は気合を入れるように目をぎゅっと瞑り、何度か瞬きをした。
かんなが顔を上げるまで待ってから、口を開く。
「俺に不満があったらなんでも教えてくれんかな」
豆鉄砲を食らったように目を丸くする。
そんなことは予想外だと言わんばかりに。
「いや、ほら。もしかしたら、かんなにとっては初カレかもわからんし、年上やろ。言いづらいこと沢山あるんちゃうかなって」
かんなはブンブンと首を振る。
夕暮れの西日が差し込む静かな部室。
「そんな……ガク先輩に欠点なんてないです……」
「それは買い被りすぎ。不満が言えん関係性なんてしんどいやろ。実はピアスに引いてます、とかない?」
「いえ。えっちでいいと思います」
「絶妙に笑えんテンションで言うなや……俺が恥ずいって。ほんまに小さいことでもええから」
「本当、先輩は何も悪くないんです」
貝のように。
どこから割ればいいん。
腕を組んで、焦れったい気持ちを抑え込む。
単刀直入に聞いてまえよ。
その首の痕はなんなん、て。
ドアホ。
失いたいんか。
オブラートとデリカシーを持っとらん男は、彼女持つ資格ないねん。
脳内で自分を叱咤しつつ、言葉をひねりだす。
「かんなを少しでも元気にしたい」
せやから……
「何に困っとるんか、聞かせて欲しい」
カラスが鳴いている。
静寂。