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もうLOVEっ!ハニー!
第17章 深い底まで証を
思えばこの二週間弱、自分から声をかけた回数なんて数える程度でした。
それがこんなに人の声に溢れる中で、どうして勇気を出せるでしょうか。
おずおずと近づき、何とか視界に入る距離まで足を進める。
手を上げると、先にこばるが気づいた。
ちょんちょんと岳斗の袖を引き、私を指さす。
すぐにぱぁっと笑顔が咲いた。
大きな腕で人混みをかき分けて、あっという間に目の前に現れる。
「わざわざ声掛けに来てくれたん?」
「はい。勝つとこ、見たいです」
ユニフォームはいつもの服より露出が高く、こんなに筋肉質だったかと視線が散ってしまう。
ベッドで過ごす時はそれほど見れないから。
シュッと挙手をして、チームに叫ぶ。
「コーチ! 五分抜けるで!」
「逢い引きは短めにしろよー」
「彼女可愛いなおい!」
「毒牙抜かれてヘマすんなよー」
チームメイトの冷やかしの声に、うっさいのーと返しながら、私の手を握って人の少ない木立の方に進む。
大きな手は少し汗ばんで、ぎゅっと掴まないと離れてしまいそう。
「いいんですか、寮生以外も見てるのに」
蝉の鳴く木の下で立ち止まる。
振り向いた岳斗は、歯を見せて笑った。
ぽにっと両手で顔を包まれる。
「なーに言うてんの」
「だって……」
「かんなは俺の彼女。世界に叫んでもええの。誰のことも気にせんくてええの。好きやで」
流れるように。
言い聞かせるように。
涙が込み上げてくる。
岳斗が慌てて手を離す。
「ちょ、ちょ、泣かんと! 五分じゃ足りんくなるやろ」
「先輩……今夜は一緒に過ごしましょうね」
ボロボロと涙が地面の砂に消えていく。
岳斗はポカンと口を開けたあとで、堪らぬように抱き締めた。
「嬉し! 寝かさへんで。うそ、無理はさせへん」
耳元に唇がチュッと触れて、ご機嫌そうな眼に笑いがつられてしまう。
「はい。楽しみにしてます」
今は身体の痕のことなんて、どうでもよかった。
無敵のように気分が晴れやかだった。
だってここにあの男はいない。
果てしない青空の下、大好きな人と二人。
「かんな」
喧騒すらも遠く遠く。
岳斗は頬に手を添えて、いつものように柔らかく短くキスをした。
「何があっても大丈夫やで」
繋がれた手を信じて、足取り確かに集団に戻った。