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もうLOVEっ!ハニー!
第21章 眩さから逃げ出して
茜は水を飲み終えたグラスを意味無く回しながら、蘭と二人きりになった食堂で呟いた。
「前から思ってたことが、結構形を成してきたんだけどさあ。蘭ちゃん」
「なあに。勿体ぶった入りね」
先の騒ぎを黙って眺めていた茜の言葉には興味があるとばかりに、蘭が丁寧に向き合う。
その大きな目に応えるように視線を重ねて、茜は小声で続けた。
「かんちゃんとガクって上手くいってると思う?」
「あはははっ、茜ったら」
「いや、笑いごとじゃなくて」
「落ち着いたら暇だからって邪推をするのは無粋でしょう? でも根拠があるのよね」
汐里が食器を洗う音がする。
そろそろ予鈴が鳴るからと、どちらからともなく、席を立つ。
ご馳走さま、と優雅に手を振った二人を汐里が明るく見送った。
廊下を歩きながら、前後に人がいないか確かめて、茜は秘密を打ち明けるように言った。
「あたしら、ガクの過去を聞いてるでしょ。もちろんかんちゃんにも打ち明けてるとは思うけどさ。すっごい偏見になるかもだけど、いじめっ子といじめられっ子が恋人になるのって不安定すぎない」
「あらあら、今更すぎる心配ね、茜」
でもそれは蘭も何度か過ぎっていた。
「力関係がハッキリしすぎている恋人というのは、秩序を生むけれど本音を閉ざしてしまうのよね」
「ああ、あたしから言ったのに後悔してきた。いや、二人ともめっちゃ良いんだけどね」
「そこに来てのモデル話よね」
「そうなのよ、蘭」
「ガクは調子に乗るようなおバカちゃんじゃないけど、隣にいる人にとって天秤が傾きすぎると不安が無限に膨らむものね」
靴を履き、鞄を揺らしながら歩く。
蘭は神妙に顎に手をかけた。
鳥のさえずりが降る朝に、不穏な話に花咲かす。
「ルカは見抜いているかもね、それにきっと才能の邪魔になるとまで思うかもしれない」
「いやそれめっちゃ怖い。ないよ、ない」
「最悪を予想するのが私達でしょう。違った方が幸せに生きていけるんだから」
「かんちゃん、誰かと恋バナとか出来んのかな」
「私達が受け皿になれないのが腑甲斐無いわね」
「二年女子はルカだけでしょ」
「猫かぶりちゃんがまともな友人なら良かったけど」
「カオリン? 残念だったね」
数秒に思えるほど早く校舎に着いてしまう。
三年の教室に向かいつつ、蘭は秋空を見上げた。
私達ですら思うことを、あの子が考えない筈がない。