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もうLOVEっ!ハニー!
第21章 眩さから逃げ出して

「あー、本当にもっと早くガクと話せばよかった」
 机に身を預けるように突っ伏す。
 古びた木の机の匂いに心を静めるように。
「もう夏も終わるしな。栗だの芋だのでスイーツ開発してくれや」
「あ、それいいね。ガクってスイートポテト好きだっけ」
「あんまり」
「なんだよ」
 もうここに用はないとばかりに、起き上がって出口に歩き出す。
 その背中を眺めながら、岳斗も部室を出た。
 もうすぐここは真っ暗になる。
 早く寮に戻らないと。
 外に出てから、大きく伸びをして司が笑った。
「あはっ。ガクさあ、モデルじゃなかったらカウンセラーにでもなりなよ」
「買い被んなよ。俺ほんまにメンタル脆いから無理」
 じれったくなるような遅い足取りで会話を楽しむ。
「もう僕も受験やめて、どっかのレストランの弟子入りでもしようかなあ」
「マリケンが通うで」
「楽しそう」
 重苦しい現実を見つめた将来の話じゃなくて、こういう雑談が日々を救ってくれる。
 司も口ではそう言いつつ、ちゃっかりと受験合格して四年制大学を満喫するだろう。
「なあ、年末おせち作らん?」
「ええっガクが包丁握るの?」
「いや、俺は豆煮る係でええ」
「食べるのは二人前のくせに」
「後輩も集めて盛大にやろか」
「本当イベント企画好きだね」
「先輩ヅラできるんも短いし」
「ああでもいいかも、おせち」
 決まりだ決まりだ、と寮に向かう足取りは軽い。
 きっと今、司を覆っている悩みは時間が解決する。
 じゃあ俺は。
 せっかく聞ける真相を逃した俺は。
 後悔せんかな。
 ジジ、と蛾が群がる街灯の下を抜けて、寮の玄関に入る。
 靴を脱ぎ、持ち上げた時に、ああ終わったと思った。
 ああ、三年男子の友情は終わったんやと。
 清と司は同じ大学を目指すことをやめて、暴くことのない秘密を抱えた清と自分が本音で話せる日は来ない。
 グッと指先に力を込めて下駄箱にしまう。
 すがりつくほど依存していた友情じゃない。
 それでも、入学して最初に腹を割って話したのが清だった。
 どんな話題でも受け止めてくれる司相手に、三人で何度も出口のない議論を交わした。
 失恋した時、誰より寄り添ってくれた。
 ああ、それが終わったんや。
 ぬるい空気の中で食堂に向かいながら、口を手で押さえた。
 今になって屋上の一件の大きさに目眩がしそうになる。
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