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もうLOVEっ!ハニー!
第21章 眩さから逃げ出して
食堂に着くと司は吹っ切れたように厨房に入り、汐里の隣で野菜を洗い始めた。その様子の変わりように汐里は訳も尋ねずに、嬉しそうに鍋を振るった。
チャーハンと酢豚の香りが満ちていく。
完成まで単語帳をめくりながらカウンターに寄りかかる。香りに誘われたように賢と尚哉が入ってきて、音楽の話に盛り上がる。それから陸とこばるが続いた。
「男しかいねえじゃん」
「陸ぅ、こっち座れ」
こばるの隣でぼやいた陸に手をひらりと上げる。意外そうに眉を上げてから、素直に丸椅子に腰掛けた。そのさらに隣に当然のようにこばるが座る。
「なんすか、未来のモデル先輩」
「こーばーるー?」
「オレ話してないっす! 美弥でしょ、ぜってえ」
ブンブンと両手を振るこばるに陸が真面目に頷いた。
根元が黒く染まりつつある赤髪を耳にかけてから、目線を重ねる。
「脈あると思います?」
「んはっ、ど直球か」
「一番仲良いのガク先輩でしょ」
「そうかあ? そうか……んー。壁は高いと思うで」
分かりやすく視線が床に落ちる。
隣のこばるが元気づけるように背中をくすぐると、鬱陶しそうにばたついて逃れた。何のために呼びかけたのかを理解しているのが可愛い。
「卒業まで半年。焦っとんな」
「全然進路教えてくんねえし。元カノの大学に行くのもあり得るでしょ」
「ない。それはない。お前、あいつそんな女々しないで」
「そう、すかね。そうならいいですけど」
露骨に嬉しそうな唇に笑いが込み上げるが、茶化すのは間違いだなと顔を引き締める。次の言葉を紡ぐ前に、トントン、とリズムよくカウンターに料理が並んでいく。
「うんまそ」
賢の言葉に全員が賛同して頷く。湯気が揺れて、艶々の豚肉が食欲をそそる。
「パインは苦手とか言う奴いねえよなあ」
汐里の煽りに尚哉が破顔した。苦手が一人思い当たるからだろう。
当の本人は金髪をぐしゃりと両手でかき上げ、苦く笑った。
ああ、ええな。
後輩たちの何気ない姿に心が満たされていく。
ええなあ、ここ。
各々がレンゲでチャーハンをかき込む。酢豚の熱々の餡に絡めて楽しみながら。
目の奥が熱くなって、冷水を一気に飲み干した。
「司あ、マジ美味いで」
「まじ? やったね」
「最高っす」
賢の気持ちのこもった言葉も更に司の心を包み込む。
三人で食べたチャーハンとは違う、思い出が上書きされる。