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もうLOVEっ!ハニー!
第21章 眩さから逃げ出して
翌朝、あれほど色の濃かった首の痕は少し薄くなってファンデで大方隠れました。
「おはよう、松園さん」
教室に入って女子に声をかけられたのは初めてでしたね。
江川がニコニコと自席から手を振る。それに合わせるように談笑していた女子たちも手を振った。こそばゆい感覚で席に座ると、隣席の恭平も笑顔を向ける。
「おはよ、松園さんて化学得意?」
「いえ、全く」
曖昧に応えようものなら手の中の教科書の問題を教えてくれと言われそうで、はっきりと否定する。
「え、仲間じゃん。どうせ一生使わないもんな」
「共感です」
「ねー、敬語やめねえ?」
「はい?」
てっきり化学の愚痴が続くと思ったら、ビュンっと胸の内にボールが投げられました。拾ってはみたものの、それはあまりに慣れない感触でどう投げ返せばいいのか分かりません。
言葉に詰まっていると、倉場が後ろから恭平を小突いた。
「困らせんなって」
「はあー? タメで話そうって言っただけだし」
「そりゃお前が楽だからだろ。敬語が楽な人もいんだろ。悪いな、松園さん。こいつ、仲良くなるには自分がしてほしいことする単純なんだ」
「てめえー」
あまりの正論に固まってしまう。
どちらも正しいから。
私は敬語が楽ですし、してほしいことをするのが仲良くなる近道もそうです。
よほど仲がいい二人なんですね。
遠慮のないやり取りに不快感が一切ない。
「でも距離感あるじゃん。もう半年もクラスメイトなんだからさ、もっと砕けようぜ」
確かに一理あると、答えようと、唇を開こうと上下の歯が離れた時でした。
女子たちの輪からええっと驚く声が響いたのは。
その視線の束がこちらを向いたのは。
中心から一人の女子が進み出る。
「松園さん、錦先輩と付き合ってるって本当?」
ああ、見覚えがあると思ったらバスケ部。
大会の時に応援に来ていた一人。
心臓が馬鹿正直に宴のように騒ぎ出す。
いつか問われるとは思っていました。
あれほど目立つ人の隣に立っていれば、人気の人の隣にいれば、好奇の目に晒されると。
それだけならまだよくて、きっとあれほどの人なら、憎悪すらも渦にして生み出しかねない。
「いやいや、ないでしょー」
ぐるぐる回る思考を裂いて聞こえてきたのは、友達になろうと言ったあの声。
江川がにこやかに続ける。
「松園さん恋愛に興味なさそうだし」