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もうLOVEっ!ハニー!
第22章 三角の終焉
朝のやり取りを思い返しながらピアノに身を委ねる。
文化祭の準備に励む昼休みの学生たちの声が遠くに聞こえる。
ああ、ワクワクする空気に溢れてる。
学園中が早く早くと祭典を待ち望んでいる。
この落ち着かない空気は二度目でも慣れない。
興味がまるでないこちらまで引きずり込んでくる渦だ。
亜季はクイズゲーム喫茶の運営の中枢の一人となって、昼休みを犠牲にして制作に励んでいる。楽しそうにクイズを創作する横顔は、無邪気そのもの。
目を閉じて、右手だけで主旋律を奏でる。
高音のブルクミュラーのすなおな心は、初心者向けと言えど名曲だ。ソの音にアクセントを置くと、思考が晴れ渡っていくような力強い音の波になる。
シャワー室でこばるに見られた日から、自分でも意外なほどに心が穏やかだった。
ルカに宣言も済ませ、残る一年半ともにする日々を最良に導いていく。
たったそれだけの目標が明確に目の前に現れただけ。
向き合うのを避けてきたそれに、今は全身を預けていいのだから。
「奈己、入るよ」
ピタリ、と指が止まる。
いつの間にか開いていた扉に立っていたのは、美弥だった。
「おや、珍しいですね。髪を切ってからだと初めて来たのでは」
「ボクにだって、人生のBGMが必要な時間もあるよお?」
スキップ気味に近づいてきて、丸椅子を引き寄せて斜め向かいに腰掛ける。
楽器の背景がよく似合う華やかな顔を前に、笑いがこぼれてしまう。
「なんの気まぐれですか」
「ちょっとね。勝手に仲間意識を持っている迷惑な先輩の人生相談を聞いてくれるかにゃ」
「なんですか」
「ボクは女の子が好きだ」
百も承知だ。
「でも男の子に求愛されている」
漆山陸のことか。同学年として彼の無謀な挑戦は視界の端で認識している。
「友情と恋愛は紙一重だよねえ。コロンと転がって、何かがハマったらさ、性的嗜好すらも白を黒に変えてくれると思う?」
「残念ですが、僕は男色ではなく亜季だけが世界の中心で全てなんですよ」
話題に合わせて、両手にあまりに馴染んだ月の光を演奏する。
何度亜季を想って弾いたことか。
「美弥先輩は、かんなのどこが好きだったんですか」
亜麻色の髪が揺れ、クリンとした両目がまっすぐに見つめてくる。
「それがね、もう思い出せないんだにゃ」
「それが答えじゃないですか」