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もうLOVEっ!ハニー!
第22章 三角の終焉

 水曜日は小テストが多いから嫌いです。
 カリカリ、とシャーペンの大合唱を聞きながら、無限に長くなるんじゃないかという計算式に眠気が漂ってくる。
 ちら、と時計を見上げて残り時間の少なさに焦って瞬きをする。
 二学期に入ってから高校生活の厳しさを教えてやるとでもいうように、テストのレベルが上がった。
 それはこの学園の偏差値の高さを知らしめるためか、卒業後の進学率の高さに備えよという警告か、はたまた教師の気分なのか。
 チャイムと同時にふうっと息を吐いて、諦念の空気の中プリントを前に回す。
 昼休み。
 江川や高水に声を掛けられる前に、後ろの扉から教室を飛び出した。

「悪い。昼飯は?」
 幽霊茶道部の空き部室で待っていた気まずそうな顔に首を振る。
「じゃー、アニキにおにぎり貰っといた俺が大正解」
 笑いながら巾着袋から取り出された大きな包みを受け取る。
 岳斗は椅子を二つ引き出して、陽が少し当たるように並べた。
「すごい大きさですね」
「俺が三個食うって言ったから。中身はね、生姜昆布」
「好きなんですか?」
「生姜と醤油入ってれば何でも好き」
「覚えときます」
「覚えといて」
 窓の向こうからたくさんの声が響く。
 昨日の夜とはあまりに違う、喧噪。
 それでも、意識さえ向ければ互いの声しか聞こえない。
「あ、お茶は買ってきました」
「おー。四本になったな」
「はははっ、もう……本当に」
 どこまでも気が付く人。
 暖かな日差しに照らされながら、むっちりとした触感のおにぎりを頬張る。
 いつの間にか二つ目の包みを開きながら、岳斗が溜息を吐いた。
「明日、撮影決まった」
 重圧を隠しもしない声色に、口も止まってしまう。
「前回目立っとった男と一緒に撮るんやて。想像つかんわ」
「平日……」
 思考が先走って言葉を遮った。
 平日に入ったということは、今後もし活動が続くとしたら休みが増えますね。
 受験よりも優先度が高まれば、本気でその道に行くんですか。
 モデル業が始まったら外で会うのは控えますか。
 脳内で留めておこうと、飲み下す。
「な、平日。早退しろって。リアルに受験を圧迫してくるわな」
「ルカさんと、行くんですか」
「いや、今回は小脇さんが迎えに来て俺一人らしいわ」
「そう、ですか」
 あの素敵な女性がハイエースに乗って来るのですね。

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