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もうLOVEっ!ハニー!
第22章 三角の終焉

岳斗が入寮してきた日も強風だった。
四月一日の朝七時にチャイムを鳴らしたのは、包帯が巻かれた金の短髪に、邪魔する奴は全員拳で超えてきたといわんばかりの迫力の青年だった。
第一声は、そう。
「生まれ変わりに来ました。世話んなります」
わずか十五歳にして、どれほどの修羅場を抜けたのか、眼光の鋭さは忘れられない。ここに来たからには暴力は禁止と伝えたんだった。
汐里の方が相性がいいだろうと、早めに食堂に送ったっけ。
翌日司が、入学前夜に清龍が入寮して、こんな三者三様の男子がいるんだなとしみじみしたもんだ。
無様に拉致られてしまったあの日まで、約束通り目に見える暴力はしてこなかったと思う。バットを握って生き生きとしてたのは少し不安だったけれど。
そう考えると、血が騒ぐ前に良いタイミングで守る対象ができたのかな。
父親のような気分で耽っている自分に首を振る。
「王様が退城したら、次は誰が統べるのかねえ」
瞼を揉みながらソファに沈む。
数分思考を真っ白に飛ばしたが、チャイムの音で重い視界を持ち上げた。退寮となるとまた手続きが降ってくる。
天井を見上げ、胸の奥の空洞が広がっていくような寂しさに襲われた。
あの部屋から太陽が消えるのは凄いことだな。
司は耐えられるだろうか。
昼休みに奈己の背中に声をかけたのは、亜季だった。
ピアノ室に向かっていた足を止め、踊り場で向かい合う。
「どうしたの」
生徒が横を過ぎるのを気にして、壁際に一歩避難する。
亜季は開いた口で深呼吸をしてから、じっと視線を重ねた。
「その……ルカに、トドメ刺してもらおうと思う」
物騒な単語に眉を潜めるが、すぐに察して言葉を探した。
「もちろん、馬鹿じゃないから、可能性の低さくらいずっとわかってたよ。自覚するのも怖い。拒絶されても諦めきれない自分がいそうで……それも嫌だし」
「場所移す?」
あまりに赤裸々な告白が続くので、人目を気にして提案するも、亜季は片手で制した。二人きりの部屋でなく、今、学園内だからこそ冷静に言えるのかもしれない。
「それで、玉砕したらさ、奈己のことちゃんと考えさせてほしい」
上履きが床のぶつかる音。
聞き取れない程度の喧噪。
「そ……う」
絞り出たのは余りに情けない相槌。
望んでいたはずの大きな一歩に、踏みつぶされそうになる。

