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もうLOVEっ!ハニー!
第22章 三角の終焉

言いたいことは山ほどあるはずなのに、乾いた喉は空気を運ぶだけ。
「シャワー室で、奈己に……されてから、ずっと考えてたんだ」
キス、という単語は流石に言いたくなかったのか、口元を隠して誤魔化した仕草に今すぐ唇を重ねたい衝動が疼く。
我慢は趣味だ。
「おれ、すっごく雑魚じゃんって」
「え?」
ぶわっと赤く染まっていく頬に眼を奪われる。
「奈己はさ、ずっと言ってくれてたじゃん。気持ち。なんて答えてたかも覚えてないけど。一回ですら怖いのに。おれなら立ち直れないと思うから」
「同情するってこと?」
「ちがくて。それは絶対ちがくて。自分がすっげえダサく思ったの。奈己に恋人役してもらって。でも裏ではずっとルカに一言も言えなくて。つまんないことばっかぶつけて」
秋風が窓を揺らしている。見れば、校庭の木々もざわめいている。
雨でも連れてきそうな雲模様に、何人かの生徒が窓に寄る。
「おれ……昔っから好きな子に可愛い男子って枠にくくられててさ」
並んで壁につけた背中が段々壁の温度に溶け合わさっていく。
今この瞬間は亜季と同じ体温かもしれない。
「だから、告白とか全部笑って流されてさ。また同じかなって、わかってるんだけど。本当はアンナのことも好きじゃないって全部わかってるんだけど……」
キスフレという概念は自分には理解できないけれど、想い人なら猶更、茨のような存在だろう。ふと、亜季の叶わぬ片思いに同情しかけた自分を戒める。
少し手を伸ばせば触れ合う指先を見下ろした。
落ち着かなく壁を撫でる指を、優しく包みこめたらいいのにと。
「今日が、いいかなって。ルカ絶対報告してくるじゃん。先輩の撮影結果とか、いろいろ……多分すっごい上機嫌じゃん」
「でしょうね」
「そういう日がいいかなあって。失恋するにはそういう日が」
最初から諦めて好意を伝える是非は知らないけれど、そういう日という音の響きが妙に鼓膜に残った。そういう日、今日はそういう日なのだと。
「もちろん、付き合えたら天地がひっくり返るけどね!」
「応援してるよ」
自然と出た言葉だが、亜季は目を潤ませて俯いた。
その横顔が、謝っているように見えて、視線をそらした。
「応援ソングでも弾いてあげようか」
「うん」
「じゃあ、おいで」
バクバクと心音が足先まで伝わる。
ああ、そうだね。
僕にとっても、そういう日か。

