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もうLOVEっ!ハニー!
第22章 三角の終焉

 荷物をまとめながら、ふとカバンの内側に括りつけられた細い紐に視線が留まる。かんなが編んでくれたミサンガだ。
 それを指でつまみ、つーっと感触を指の腹に滑らせてから空に浮いた。あの大会からもう一年くらい経った気分だ。
「ガク、早退レアじゃね?」
 隣席のクラスメイトに声をかけられ、ふっと笑いが漏れる。
「ほんまにな。皆勤賞だけが取り柄なんに」
「恵まれた人の冗談はちげえわ」
「うるさいわ」
 慣れた軽口も唇が震えていないか心配になるほど、鼓動が速まりつつある。あと数時間後に決まる運命に全身が慄いているのがわかるのだ。
 教室を出ながら、上履きの履き心地すらも敏感になる自分に溜息を吐く。
 ルカは凄いわ。
 あの空気の中で自信に満ちた笑顔を出すのが、どれほどの努力の上に立っているか。軽率に芸能人のコマーシャルも見れなくなった。
 動画サイトに流れてくるブランド物の広告も注意深く見るようになった。映画雑誌を見返しながら、ポーズのひとつひとつに見入った。
 膝の角度、目線のずらし方、唇の端の力の入れ具合まで、切り取られた一瞬が作品になることへのプレッシャーに手汗が止まらなかった。
 玄関を出て木立を歩きながら、体育の準備をする生徒の群れにふと目を向けると、数秒でピントがぴたりとあった人影が右手を上げる。
 揺れる長いポニーテール、恥ずかしそうに口元に左手を添えて、控えめに手を振った彼女から目が覚めるような風が吹いた。
 ああ、ありがたいわ。
 手を振り返し、笑みで緩んだ口元を押さえる。
 こういう偶然はずるいわな。
 サッカーボールを不器用に蹴り歩く姿を、つい何度も振り返ってしまう。ドリブルというよりボールを追いかけるのに必死。
 想像通りの不器用さに、緊張が嘘みたいに引いていく。
 今すぐ側に行って蹴り方を教えてやりたいが、それは我慢。今度スポーツの出来るレジャー施設に行くのもええなと気分が上がった。
 
 寮に荷物を置いてから、小脇の待つ駐車場に向かう。
 前回と同じ車が見えて、運転席から飛んできた視線に撃たれたように緊張が蘇ってきた。
 情けな。
 会釈しながら後部座席のドアを開くと、中には湊と呼ばれていた共演者が座っていた。予想外の登場にひゅっと息を呑む。
 相手はこちらの登場を予期していたようで、落ち着いた笑顔で口を開いた。
「今日はよろしく。錦君」
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