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もうLOVEっ!ハニー!
第22章 三角の終焉

パッと手を離すと、これまでの不躾な馴れ合いをやめ、腕を組んだ。
「錦君さあ、絶対女子にモテるタイプじゃん。だから男慣れてないかなーって。効くかなあって思ったんだけど」
「んっはは! ゲイちゃうやろ」
「どっちも興味なし。毛嫌いされるか意識してくれればなって」
「協力せんの?」
「本当よねえ! 湊君、今のは愚策よ。面白かったけど」
「ええー。お陰で遠慮なく話せるようになったでしょ。だって乗ってきた時の顔やばかったし。戦場にでも行く気かって」
「気を遣ってくれたんならどーも」
確かに数分で壁ぶっ壊してくれたわ。
車の振動もスタジオまでの距離も気にならない。
首元に揺れる髪を両手でいじりながら、あーあ、と息を吐く。
「少しでも優位に立ちたいじゃんねえ。そうだ、錦君もうこの世界入ってくんだよね」
小脇の後ろ頭にぴん、と耳が立つのが見える。
今言うつもりはなかったが、誤魔化すのも怠い。
「本気でやりたい」
丁度信号で止まり、小気味よく拍手が運転席から送られる。
「そうじゃなくっちゃねえ。今から宝物ツーショ撮り貯めておきなさい」
互いに視線を交わし、スマホを出すタイミングを逃す。
「小脇さんはデビューから仲いい人いるんですか」
「はは、まさか」
一度来たとはいえ、車を降りる瞬間から全身の血が爪先に逃げるのは止められない。情けない。
小脇の二歩後ろで肩を合わせるように並んで歩く。
湊は水色と黄緑のパステルストライプシャツ、ジーンズの上にミニスカのような黒い布を巻いていた。それがひらひらと太腿に当たるのがこそばゆい。
「咎さんさあ、男色で有名だよ」
現場近くで言うにはハイリスクな囁きに、目を見張る。
「てかこの世界多いよ。どこまで肌見せるか決めといた方がいい」
嫌というほど纏わりついた悪い記憶を払うように、湊は黄色のシューズを地面に擦った。ギュヂッと鈍い音を立てた足元を一瞥する。
「けど単価ちゃうやろ」
「短絡的に稼ぎたいなら動画配信とかのが早いよ」
「配信……」
「契約前なら自由だし。今のうちに作っといたら?」
動画サイトで流れてくるライブ映像を脳裏で再生する。
相当メンタル要るやろ。
「ほら、エレベーター乗るわよ」
閉鎖空間に足を踏み入れ、鼓膜がぐっと圧迫されるのを感じながら、金を稼ぐという重みが頭に圧し掛かってきた。

