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もうLOVEっ!ハニー!
第22章 三角の終焉

 あの人がこれからすべきは、ソーシャルネットワークの整備とプライベートの徹底管理。
 ルカは午後のまどろむような授業から完全に意識を飛ばしていた。ノートに視線を落としてはいるが、認識しているのは公式ではなくワークフロー。
 きっと今日、仕事を掴んでくる。
 絶対的な予感があった。
 脇に立つのがプロでないなら、絵面を占めるのはガク先輩だ。
 緊張の蛹から眩い蝶が羽化した瞬間を思い返して、ほうっと息を漏らす。どうしてあんなことが出来るのに、この道に引きずり込まれなかったんだろう。
 やはりバスケですかね。
 仲間がいるうちは個での戦いに挑みにくい。
 しかし脳裏に浮かんだのはユニフォームの軍団ではなく、華海都寮の三年男性陣。ガク先輩を中心に、寄り添うようでいて、自立していたあの三人。
 屋上の事件で破裂した三角のお陰で、今日があるのかもしれない。
 ルカは自分が考えないようにしている人物に目を瞑った。
 松ちゃん。
 彼女の存在こそが、この世界に導いた稲妻であり、無視してはいけない。
 こん、こん、とマーカーペンをノートの最下部に打ち付ける。
 無視してはいけないのだけれど、今後彼女には退場願いたい。
 セルフブランディングを始める際に、圧倒的異性人気に支えられる前提で交際相手の香りは一滴も漏らしてはならない。素人にそれは厳しすぎる試練だ。
 テスト範囲のアナウンスにペンを走らせながら、今夜小脇と何を話すかを筋道立てていた。幾多もの十代モデルに指導してきた彼女なら、未熟な自分以上に最適解を叩きつけてくれるはず。
 ただ、もし……
 もし、それが破局への導火線に着火するのであれば……
 柔らかな後輩の笑顔を、撮影時の畏怖に溢れた表情を思い出す。
 貴方が蒔いた種で育った木に殴り飛ばされることになる。
 ざらついた舌の感触に、舐めた唇が乾燥しているのに気づき、黒板を見ながらそっとリップを塗り直した。何度か唇を擦り合わせ、滑らかな摩擦に頬を緩ませる。
 号令と共に頭を下げ、五限に備えて教科書を取り出しながら、通知のランプにスマホを手に取った。メッセージは亜季からだった。
 数時間後の約束に、何か胸の奥を塞いでいる岩が動くような、鈍い緊張が沸き上がる。最近の奈己の態度は今日への予告だったのかもしれない。
 なぜ、今日……
 人知れず肺を空に萎ませた。

 
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