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わたしの心が消えるとき
第5章 それぞれの夜
ほのかは母の仕事を知らない。
昼過ぎに出て行って、夕方帰ってくる。
何をしてるのか聞いても教えてくれなかった。子供は知らなくてもいいと言われた。

ただ、仕事から帰った母は、家の物とは違う石鹸の匂いがした。

ほのかが清華女学院に入学する時から、『お勤め』をさせられるようになった。
『これからもっとお金がかかるんだから、ママを手伝いなさい』と言われて…

清華に入ることは、もちろんほのかの希望ではない。
意思の決定権は、全て母親にある。

その頃から、ほのかは人に触られるのが怖くなり、どもりも出るようになった。

今度の日曜も、『お勤め』に行かなくてはならない…
でも今は、その事は考えたくない…

自分の部屋に行こうとした時、玄関のチャイムが鳴った。
続いて、ドアをノックする音と男の声。母の名を呼んでいる。
「亜希!いるんだろ!?亜希!」

母は起き上がり、ドアに向かった。
途中、ほのかの顔をちらりと見た。
その目が言っていた。
『早く自分の部屋に行きなさい!』
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