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富美
第4章 棚からぼた餅

にじり寄って「うちのことどないに思っとる?」と膝を撫でてきた。

「ど、どないって・・」

秀夫は答えに困り、惚けたが、「分っとる癖に意地悪やな。好きか、嫌いか聞いいとんのや」と冨美はビールをグイッと飲むと拗ねたようにプイッと背を向けてしまった。

嫌われたくない秀夫は、慌てて「あっ、いや、ぼ、僕は、あ、あの、す、好きです・・」と言ってしまったが、それは富美の思う壺。

「そないなことを言ってくれるんは秀夫ちゃんだけや」と秀夫から缶ビールを取り上げると、その残りをゴクゴクと飲み干していた。

「うちのこと、〝男あさり〟ってみんなが言うとるの知っとるやろ?」
「あ、いや・・」
「惚けんかてええ」

富美はそう言って、残っていた自分の缶ビールもグイッと飲み干した。

「うちは旦那以外の男とも寝てきた。かて、誰でも構わずに寝た訳やない。好きになった男が旦那の他にいたからや」

富美はふぅぅーと息を吐いた。

「一緒に働いて分ったんやけど、秀夫ちゃんはほんまにええ男や。朝晩、きちんと挨拶するし、そこらへんの大人よりもずっとええ男や」

妙な気配に秀夫は喉がカラカラになっていた。

時刻は午後9時過ぎている。虫の鳴く音だけが聞こえる静かな夜だった。

「秀夫ちゃん、うちと夫婦にならへんか?」
「えっ、夫婦?」

冨美は秀夫にしなだれかかるよう寄り添い、太腿に手を当ててきた。

「好きになってしもうたんよ。だから、一緒に寝たいん、それだけや」

秀夫はびっくりしてしまった。やりたい盛りの16歳といっても、そんなことは考えたこともなかった。だから、「棚からぼた餅」と言っても、逆に怖気づいてしまった。

「ぼ、僕は・・」と口ごもっていると、「何も心配せんでええ。うちがあんじょうしてあげるから」と富美がズボンの上からだが、股間を撫でてきた。

秀夫は「あっ・・」と声が出てしまったが、嫌がる訳でもない。
「ええなあ?」と冨美に聞かれると、「うん・・」と答えたしまった。

立ち上がった富美は玄関に降りると、ガチャガチュと音とをさせながら引戸に鍵を掛けていいた。
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