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メンタリズムな恋…
第9章 先生、逸れないでね
「そこからは?」
先生の声がする。
そうやって先生は私を記憶の世界で誘導する。
「剥き出しのコンクリートの壁…、少し埃っぽくて車の排気ガスの匂いがする。」
私は私の感じる五感を呟く。
メンタリストの誘導で当時の私が感じた嗅覚や視覚などを思い出しながら記憶を辿る。
この誘導にミスがあれば
『私は宇宙人に拐われた。』
と本来とは違う記憶を作り出してしまうのが人の心理だと学んだ。
だから先生は慎重に私の記憶を誘導する。
「何が見える?」
「たくさんの車…。」
そこは大型モールに設置された駐車場。
魔法王子は私の手を強く握り早足で歩いて自分の車へと連れて行く。
「お兄ちゃん、待って…。」
お母さんの姿がない事に不安になる。
私の手には魔法少女のお菓子がある。
お菓子はお金をレジで払わないとお店の外に持って出ちゃいけないとお母さんが言ってた。
お菓子のお金はお母さんが払ったの?
それともお兄ちゃんが払ったの?
そう聞く為に立ち止まる。
「さっさと来いっ!」
さっきまで優しい表情だった魔法王子が悪魔の使いに豹変する。
「ひっ!?」
流石に怖くなって悪魔になったお兄ちゃんの手を振りほどこうとするのに私の小さな身体は抱えられて白い車に乗せられる。
「どんな車…。」
「白の4ドア…、セダン…。」
先生は片時も私の傍から離れず私の肩を抱いて寄り添ってくれる。
私は映画を観るように自分の記憶を観る。
「大声を出して喚いたりするな。泣いたりもだ。もしも騒ぐならお前の顔が潰れるくらいまで殴り付けてやるからな。」
男は私の口を大きな手で押さえ付けて握り拳を目の前にチラつかせる。