この作品は18歳未満閲覧禁止です
- 小
- 中
- 大
- テキストサイズ
メンタリズムな恋…
第18章 先生、先生って呼んで
「幸之助…。」
そっと幸之助の顔に触れてみる。
伸び切った前髪を指先で避ければ幸之助の額には、この寒さに不似合いな汗が浮き出てる。
河合教授は幸之助が怪我をしてると言ってた。
「幸之助…、痛いの?」
かなりの高熱だと思う。
「亜子にはバレるんだな。」
そのまま幸之助がもたれるように私にしがみつく。
「歩ける?」
タクシーを拾うべきかと迷う。
クリスマスの夜だから、こんな地味な駅前にはタクシーの姿が見当たらない。
「この寒さがキツい。少し暖まれば楽になる。」
頼りない声で幸之助が呟く。
「とにかく教授の家に行こう。」
「その前に飯とか食える場所はないか?アメリカを出てから何も食ってない。」
「そこの商店街にラーメン屋ならあるよ。」
「なら、ラーメン…。」
無理に笑う幸之助を嫌だと思う。
教授は彼を患者として扱ってる。
そして私はカウンセラーとして幸之助と向き合わなければならない。
古びたラーメン屋がある。
クリスマスの夜だからかお客は私と幸之助だけ…。
「ラーメン…?餃子も食べる?」
薄っぺらなテーブルを挟んで幸之助と座り幸之助が食べる物を質問する。
「ラーメンだけでいい…。」
コートを着たままの幸之助が呟く。
左腕はずっとダラりと下げたままだ。
「左手を怪我したの?」
冷静を装う幸之助に不安を感じる。
「正確には左肩にな。」
「なんで怪我したの?」
「その話は食欲が無くなる。」
相変わらず、自分の言いたくない事は答えない。
しかも、ずっと穏やかな笑顔で何事もなかったかのように私を見てる。