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メンタリズムな恋…
第18章 先生、先生って呼んで
「まただ。」
私の顔に幸之助が指先で触れながら呟く。
「何が?」
「その顔…、俺だけに向けて来る亜子のその表情…。それは俺が悪いのか?」
私が幸之助だけに見せる表情…。
幸之助の痛みを感じて私が顔を歪める瞬間を幸之助は見逃さない。
「帰ろう…、雪が酷くなってる。」
幸之助の真似をして幸之助の質問には答えずに彼の右腕を支えるようにして歩き出す。
教授の家に入り幸之助を教授がいつも学生を泊める部屋へと案内する。
「ここが教授の家か?」
教授の自宅に来たのが初めてだと言う幸之助は珍しい物を見るみたいに玄関で靴を脱ぎながら天井を見上げる。
「教授の書斎と寝室は2階だから、ここに来る学生は2階に上がらない約束なの。その代わり、1階の台所やお風呂、トイレ、この部屋は自由に使っていいって教授が言ってる。」
それが、この家のルールだと幸之助に教える。
2階は奥様との思い出がある。
そこだけは教授が守りたい場所らしい。
博士論文に行き詰まった学生が寝泊まりする部屋はクローゼットと机とカバーがかかったシングルベッドしか無いというシンプルな部屋だ。
私はベッドカバーを外して幸之助を座らせる。
「コート…、脱ぐの手伝うから…。」
「ああ…。」
幸之助は左腕をずっとダラりと下げたままだ。
古臭いダッフルコートを脱がせれば、その下からはTシャツとジーンズだけという夏の時に消えたままの幸之助が現れる。
「馬鹿じゃないの!?この寒さでダッフルだけとか死んじゃうわよ。」
「俺…、ずっと西海岸に居たから…。この程度しか服が無い。」
「ここは日本だっつうの。」
膨れっ面のままでしか幸之助と話せない。