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メンタリズムな恋…
第19章 先生、帰ろう
「遅ーいっ!」
翌日、幸之助が来たのは昼前…。
「一応、急いだ。」
幸之助がもごもごと呟くように言い訳する。
「ほら、運転は私がするから…。」
前と全く変わらない80年代ミッション車を幸之助から取り上げる。
「どこに行くんだ?」
助手席に踞るボロ雑巾が呟く。
あの時と変わらない感覚が私の中に蘇る。
不機嫌に見える幸之助なのに幸之助の穏やかな感情がちゃんと私に伝わって来る。
「うちの実家に決まってるでしょ。」
扱いにくいミッション車を運転しながら答える。
「はぁ?」
「アメリカじゃ知らないけど日本じゃ年末は自分の家に帰省するのが当たり前なの。」
「それは亜子が自分の家に帰るって意味だろ?」
「帰省は家族で帰る。つまり私と結婚する幸之助も一緒に帰って挨拶する。これ、礼儀ってやつね。」
「結婚って…。」
「約束してないとは言わせない。」
「……。」
3歳の約束だった。
その約束に幸之助は今も縛られてる。
だから幸之助は私の無茶振りに反論しない。
その代わり…。
「俺が行っても大丈夫なのか?」
不安を含む言葉を呟く。
「大丈夫だよ。」
「お前…、河合教授の時も教授は怒ってないとか軽く言ったけど、しっかり怒ってたぞ?」
「あれは怒ってた訳じゃないよ。」
「お前には怒ってなくとも俺には怒ってんだよ。」
「そうじゃないよ。」
「なら、なんなんだ?」
不貞腐れる幸之助が視線を窓の外へと向ける。
メンタリストだから他人の感情に敏感になる。
特に、親しい人の感情が理解出来ないと幸之助は怯えて逃げようとする。
神奈川のご実家になかなか帰りたがらないのはその為だろう。