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メンタリズムな恋…
第8章 先生、帰るから待ってて
「先日、河合教授からその誘拐事件の少女に危険が及ぶかもしれないと僕は相談を受けました。」
「誘拐事件の少女?」
「誘拐されたのは三好 亜子ちゃん。当時は3歳だったと記録されてます。」
「ちょっと待って!?」
片桐さんの話が全く見えなくなる。
私には誘拐された覚えがない。
そんな記憶があれば心理的に私の成長はもっと変わった状況になってるはず…。
幼少期のトラウマは、その人の人生に何らかの影響を及ぼすものだ。
私にはそんな影響を受けた形跡などない。
片桐さんの話に今度は私が狼狽える。
膝に置いた手が震える。
その手に片桐さんが自分の手を重ねて来る。
「大和さんから…、何も聞いてなかったのですか?」
片桐さんは先生を責める言葉を吐く。
「先生から…?」
声が震える。
「幼児誘拐の第一発見者は大和 幸之助。当時、中学生の少年でした。」
片桐さんは先生の名に憎しみを込める。
「せ…んせ…が?」
「三好さんの捜索願いは行方不明から2時間以内に出されました。場所は三好さんの家族がよく利用した大型モール型のスーパーです。」
そのスーパーならわかる。
私の家から車で30分の場所にある。
特別な時に行くスーパー…。
近所の小さなスーパーではなく何でも揃ってる凄いスーパーだから家族で行くのを楽しみにして出掛けた記憶しか私にはない。
そこで片桐さんの話が途絶える。
私の気持ちが落ち着くまで待ってくれてる。
吐きそう…。
霧がかかる記憶を必死に手繰り寄せても私の手には届かないもどかしさと、その記憶を見てはいけないのだと何かが私にブレーキを掛けて来る得体の知れない恐怖に翻弄される。