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独占欲に捕らわれて
第8章 独占欲に捕らわれて
「それか自分の気持ちに気付いてないか……」
「ますますわけが分からないわ。持病に気づかないのはよくある話だけど、自分の感情に気づかないだなんて、フィクションの中だけじゃない?」
千聖はつまらなそうに言うと、チーズをかじった。

「はははっ、面白い例えを引っ張り出してくるね。恋は病気みたいなものさ。気がついたらその人のことを考えてたら、それは恋さ」
片目を閉じる義和に、千聖はげんなりした顔をする。
「ヨシさん、恋愛ドラマなんて趣味あったっけ?」
「はははっ、私はフィクションの話じゃなく、リアルの話をしているんだよ」
「へぇ……」
千聖は興味無さそうに返事をすると、ダーティーマザーを飲み干した。

「君は本当に、恋に興味がないんだな」
義和は困ったように笑う。
「そりゃあね。他人のために忙しなく泣いたり笑ったりしてる暇あるなら、お酒を呑んでるわ」
「千聖ちゃんらしいね……。では、今からは純粋に呑む時間にしようか」
義和の言葉に、千聖は目を輝かせる。
「えぇ、是非ともそうしましょ」
色恋の話はここで終わり、日付が変わるまで呑み明かした。

契約最終日の土曜日、昼過ぎに千聖が買い物から帰ってくると、LINEの通知音が鳴った。同時に紅玲の顔が過ぎる。
「まさか、ね……」
LINEを開いてみると、紅玲からだ。今夜食事とホテルをご所望している。
「最後だものね」
何となく呟いた言葉が鉛のように重く、千聖の心に沈んでいく。

夕方6時、待ち合わせ場所であるアイスクリーム屋へ向かう。
(そういえば、ここで再会してから始まったのよね……)
紅玲を利用しようとした時のことを思い出しながら歩いていると、後ろから肩を叩かれた。驚いて振り返ると、笑顔を浮かべた紅玲がいた。手には何故か、大きなカバンを持っている。

「久しぶりだね、チサちゃん。会いたかったよ」
「そう言う割には、しばらく連絡なかったけど?」
「あ、もしかして寂しかった?」
嫌味ったらしく言っても、紅玲はヘラヘラ笑いながら言葉を返す。いつも通りの彼の様子に、千聖は内心安堵した。
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