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独占欲に捕らわれて
第8章 独占欲に捕らわれて
「そりゃね……。そもそも隠しようがないでしょうよ……」
「まぁ隠す気もないんだけどね。今日が最後だから、思い出の地を巡ろうってだけ」
「本当にそれだけ?」
どうしても裏があるように思えてならない千聖は、さらに問いただす。

「もしかして、サプライズに婚約指輪でも用意したほうがよかった?」
「茶化さないでよ」
千聖がそう言いながら睨みつけると、紅玲はわざとらしく怖がってみせる。
「チサちゃん怖いよ。本当だって、チサちゃん考えすぎ。オレがなにか企んでるっていう根拠があるなら、話は別だけど」
そう言われると、千聖は黙るしかない。

「今日は笑って終わろうよ、最後なんだからさ」
紅玲は穏やかに微笑みながら言う。その笑みが、千聖の不安にも似た感情を掻き立てる。
(運命だなんだって言ってたわりには、ずいぶん落ち着いてるのね……)

しばらくすると料理が運ばれ、ふたりは他愛のない話をしながら食事をした。紅玲は終始寂しさや未練を感じさせず、楽しそうに会話をしていた。
食事を終えると、ふたりはホテルへ行く。
「22時半か……」
紅玲はスマホを見ながら、ぽつりと呟く。
「なにか用事でもあるのかしら?」
「いや、なんでもないよ」
紅玲は貼り付いたような笑顔で答えると、ベッドの上にカバンを置いた。

「ずっと気になってたけど、それはなんなの?」
「これ? ヒミツ。シャワー浴びよっか」
紅玲は千聖の肩を抱き、浴室へ行く。髪や躯を洗い合って浴室から出ると、ベッドの上で向かい合うように座る。紅玲は千聖を抱きしめると、触れるだけのキスをした。
「好き、愛してるよ、チサちゃん。チサちゃんは? オレのこと、どう思ってる?」
愛を求める紅玲に、千聖はげんなりする。

「すごい人だとは思うけど、好意は抱いてないわ。契約期間が終わったら、会うつもりはないもの」
千聖がきっぱり言うと、紅玲はニィッと口角を上げた。
(なんなのよ……?)
紅玲の不自然な笑顔に、得体の知れない恐怖がこみ上げてくる。
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