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ひと夏の恋……そして……
第1章 進みだした時間

「ママ――」
夏樹の想いを受け入れようとした瞬間に私を呼ぶ声にハッとして、急いで夏樹から離れ距離を取る。
それと同時に厨房裏から真和が顔を出した。
「あっ!なつ兄ちゃんだ!」
私の横に立っている夏樹を見つけると、私より先に夏樹の足元にしがみついた。
夏樹は、軽々と真和を抱き上げて抱っこする。
「真和。どこに行ってたんだ?」
「あのね。あのね。ちーちゃん家で遊んでたの。僕ね。ちーちゃんと結婚するんだ」
真和は瞳をキラキラさせながら、幼稚園で一緒のちーちゃんの事を拙い言葉で話し始めた。
まだ言葉がスラスラと出てこない真和に根気よく付き合いながらおしゃべりをしてくれる夏樹を見ていたら、父親がいない真和が不憫に思えてくる。
真和は父親の顔を知らない。
だからなのか、ずっとお店に顔を出して相手をしてくれる夏樹を慕い、どこかで父親のように思っているんだろうと思う時がある。
――夏樹が父親……
先ほどの夏樹の想いを受け止めたら、真和は幸せになれるのだろうか。
今はまだいい、まだ5歳だから。
だけどこれから男親が必要になる時がきっとくる。
そんな時に夏樹が傍にいてくれたらどんなに心強いか……

