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ひと夏の恋……そして……
第10章 夏の終りと共に
「ちっ!間に合わないか」
夏樹の言葉にハッとして顔を上げれば、舫い綱が外されようとしているところだった。
船場に到着した時には舫い綱は完全に外され汽笛が大きくなった。
「和泉……」
車から降りて大きな船を見渡す。
夏樹が言った言葉が本当なら、この船のどこかにいるはずだと甲板を見上げて和泉の姿をさがした。
「真緒、あそこ!」
夏樹が指さした方向を見れば、和泉が壁に寄りかかり島の方を眺めていた。
眺めている方向は間違いなく私たちの家があるほうで、私はたまらず声を上げた。
「和泉!!和泉!!!!」
私の叫びは和泉に届き、驚いた顔をして私を見降ろした。
私と和泉の距離は数十メートルなのに手が届かない。
徐々に離れていく距離に涙があふれてくる。
「和泉!どういうこと?帰るって、どういうこと?」
声を張り上げ聞いても和泉は何も言葉を返してくれない。
ただ辛そうな表情をして私を見つめるだけだった。