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ひと夏の恋……そして……
第2章 逃げてきた場所

「私には兄がいます。兄は頭が良くて運動も出来て学校では生徒会長もやって両親自慢の子。だけど私は人に合わせたくない程の出来損ない。毎日毎日一時間以上そんな事を言われ続けておかしくなりそうだった。このままだったら両親を殺してしまうかもと、そんな自分が怖くて逃げ出してきたんです。唯一優しかった叔母さんの所に」

話しながら涙が止まることはなかった。
しゃくりあげながらも心の内を全て吐き出した。

「逃げ出してきたのに死のうとしたんだ?」

「楽しそうな声が……楽しそうな声が聞こえたんです。逃げ出してきたのにここは楽しすぎて、自分との差を見せつけられた気がした。そしたら生きていく意味が分からなくなって、こんな思いをするぐらいなら死にたい、死んで楽になりたいって……」

夏樹さんはそれから何も話さなかった。
ただ波の音を聞きながら時だけが過ぎて行った。
耳あたりの良い音は、自然と心を穏やかにする。
さっきまで悲しかった気持ちも波と一緒に引いて行くようなそんな気分だった。


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