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ひと夏の恋……そして……
第16章 すれ違う気持ち
「なぜ、あなたまで泣くんですか?」
佐伯さんの言葉に顔を上げると、そっと流れ落ちる涙を拭う。
このまま彼の胸に飛び込めたらどんなに楽だろう。
泣きつけば佐伯さんは受け止めてくれる。
何も聞かずに抱きしめ、私が欲しいことをきっと言ってくれる。
だけど、私が彼の胸に縋ることはできない。
私はまだ夏樹が好き。
夏樹と共に生きていくと決めたばかり。
こんなことになってしまったけど、これ以上夏樹を裏切ることなんてできなかった。
「何でもありません。大丈夫です」
自分で流れ落ちる涙を拭いて笑顔を見せても佐伯さんは納得してくれない。
「何もないはずがないでしょう。あの夏樹さんという方と何かあったのでしょう?あなたが夏樹さんの名前を叫ぶ声が聞こえてましたから……あの様子では良い感じではありませんね」
あれだけ大声で夏樹の名前を呼べば聞こえていても仕方がない。
「お見苦しいところをお見せしてしまって申し訳ありません」