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ひと夏の恋……そして……
第4章 未来への第一歩
「なぁ、真緒。Wirbel(ヴィアベル)の曲、一緒に聞かないか?」
「えっ?」
当時の事を思い出すから聴かない思っていた夏樹の口から出た言葉に驚いた。
「あの曲聴くとさ。あの夏のことを思い出すんだ。良いことも悪いことも...... だから、ずっと聴かずにきた」
――良いことも悪いことも......
その言葉に胸が締め付けられる気がした。
あの時は子供で自分のことばかりで夏樹を思いやる余裕なんてなかった。
ただ目の前の楽しい出来事に夢中で、夏樹をどんなに傷つけていたかなんて夏樹の涙を見るまで気が付かなった。
「間違えるなよ。真緒を責めてるんじゃないんだ。」
足を止めた夏樹は、私の方に身体ごと向けた。
まっすぐに見下ろしてくる夏樹の目に弱々しさはなかった。
ただ力強く私を見つめていた。
「そんな曲を真緒と一緒に聴きたい、聴いて昔のしがらみを断ち切りたいんだ」
夏樹の言わんとしていることが何となく伝わった。
何度も何度も聞いたWirbel(ヴィアベル)の曲。
良いことも悪いことも思い出す切ない歌声。
私はあの夏に囚われてずっと待ち続けてきた。
その夏から抜け出そうとする今、私を連れ出そうとしてくれる夏樹と聴くのも良いのかもしれないと頷いた。