この作品は18歳未満閲覧禁止です
- 小
- 中
- 大
- テキストサイズ
ひと夏の恋……そして……
第1章 進みだした時間
「真緒はどうす?」
「私は……この店を離れたくない……かな」
夏樹の問いにそのままの想いを口にする。
言葉にして店内をぐるりと一周見渡し、一枚の絵を見つめた。
店内にある、唯一の絵画。
夕日が沈む絵……
「ずっと、待ち続けるつもりか?」
その絵を見ていると、夏樹の切ない声が耳に届いた。
「いつ現れるか分からないあいつを、いつまで待ち続けるつもりなんだ?」
――いつ現れるか……
5年たっても現れないあの人が、今更姿を現す確率なんて低い……ないに等しいことは分かっている。
分かっていても諦めることができないでいる。
もしかしたら今年は顔を見せてくれるかもしれない、もしかしたら来年は……と5年も過ぎてしまった。
考え事をしていると、夏樹の手が頬に触れ、振り返ると優しい眼差しで見つめられていた。
「もう、いいだろう?どこかで踏ん切り付けないといつまでたっても真緒が苦しいだけだ」
夏樹の切ない言葉が胸に届く。
「俺じゃ、ダメか?真緒の傍にいるのが俺じゃ」
夏樹の眼差しはいつにも増して真剣で逸らせなかった。