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爪先からムスク、指先からフィトンチッド
第16章 2 宮様と王子
――こっそりと芳香は妄想を愉しむ。
「君の足を研究させてよ」
薫樹に変わり、爽やかにミント王子に言われ検体になったと想像する。
(すっきりして終わりそうかな)
「失礼、シンデレラ」
無表情な薫樹に靴を履かされる。
(やっばーい。すっごいドキドキする)
はあはあしていると真菜が心配して顔を覗き込む。
「どうかした、芳香ちゃん、顔赤いよ」
「え、そう? 今日暑いもんね」
「ん、夏日だね」
薫樹のことを考えると胸がどきどきして、彼の指先を嗅ぎたくなる。
「ねえ、真菜ちゃん、いつまで好きな人のことを考えるとドキドキするのかな。結婚してもドキドキするのかなあ」
「ふふっ、芳香ちゃんはときめいてるねえ」
「え、あ、うん」
「私はなんかときめいたことないんだよねえ」
「へー、そうなんだあ」
「うん、興奮することはあるけどね。それってドキドキじゃないよね」
「そ、そうだね、なんか違うね」
赤面する芳香に真菜はニヤニヤする。
「まあでもさ、相手のことを想う気持ちがあるのが大事じゃないかな。ドキドキでもワクワクでも」
真菜のさっぱりとした回答はいつ聞いても気持ちが良い。想う人がいることは幸せなことだと芳香は実感した。