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爪先からムスク、指先からフィトンチッド
第22章 ラブローションに溺れて
「お待たせしましたー」

 大きなトレイに4つ鉢がのせられている。箸も4膳だ。誰のだろうと芳香が思っていると、もう一人涼介の後ろからトレイを持った女性が現れた。カフェエプロンを身に着けた環だ。

「あっ、た、た、TAMAKI!」

 芳香は話には聞いていたが、実物を目にすることなどないと思っていたのでとても驚き、そして美しさに目を見張った。

 スーパーモデルのTAMAKIが自分の目の前にデザートを配っている。
芳香はあんぐりと様子を見守るだけでじっとしていた。
涼介と環が並んで腰かけると、環が芳香に声を掛けた。

「初めまして。唐沢環です。薫樹の恋人の芳香ちゃんね」

 柔らかい笑顔を見せられて芳香はハッとし、慌てて「柏木芳香です。よろしくお願いします」と立ち上がって深くお辞儀をした。

 動揺している芳香の指先を薫樹はそっと触り、席に着かせる。
環の「なかよくしてね」という言葉に芳香は興奮して「あ、あの。私、前に雑誌で環さんのインタビューに感動して、それから、えっと私も頑張らなきゃって思って、あの、これからも頑張ってください」と一気に告げる。

「インタビュー?」

 涼介が尋ねると環は一度自分の生い立ちを語ったことがあるということだ。ジャンから「チャンスを使うように」と最初に言われた言葉を座右の銘にしているということが芳香に感銘を与えたらしい。芳香もその言葉をいつも思い、今こうしていられるのはその魔法の言葉のおかげだと話した。
 薫樹は二人の前向きな女性の話を聞きながら、今回の仕事も自分へのチャンスだととらえようと思い返す。

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