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爪先からムスク、指先からフィトンチッド
第22章 ラブローションに溺れて
 少し緊張が砕けたところで涼介が「じゃ、これ食べてね。バミーナーム(タイ風ラーメン)とクルアイブワッチー(バナナのココナッツミルク煮)をミントで仕上げてみたんだ」と食事を促した。
 芳香はまた目を輝かせ「いただきます!」と箸に手を付けた。

「僕のも食べるか?」

 薫樹は芳香の元気な食べっぷりにすっとクルアイブワッチーを差し出すと、芳香は恥ずかしそうに「だ、大丈夫です」と答えた。

「元気で可愛い人ね」

 環にそう言われた芳香はさらに恥ずかしそうに赤面する。

 大柄な三人に囲まれた芳香はまるで幼気な子犬のようだ。
食事を終えると涼介は食器を下げ、アイスミントティーを配り座ってコホンと咳払いをした。

「えっと。兵部さん、僕たち結婚します」
「ほう。いつの間に」

 薫樹はそんなに驚くこともなく受け入れているが芳香はまたびっくりさせられた。しかし目の前のゴージャスな二人を見るととてもお似合いだと思った。

「おめでとう、環」
「ありがとう」

 環は豊かな表情を見せるようになっている。これから彼女はモデルを引退して涼介の側にいると言うことだ。

「それはそれは。各界に激震が走りそうだな」
「はははっ。そりゃあ世界の環を僕が射止めたんですからね」

 芳香はモデルのキャリアを環が捨てることをどう思っているのか知りたかった。

「あの、すみません。モデルをやめることは惜しくないんですか? まだまだご活躍中なのに」

 涼介に気を使いながら恐る恐る尋ねる芳香に環は笑顔で答える。

「もうモデルはやりつくしたの。後進もたくさんいることだし、私じゃなくてもいいのよ。私は次のチャンスが現れたから、それを生かすのよ」
「はあー、か、かっこいい……」
 芳香はうっとりと環に見惚れたが、アラームを設定してたスマートフォンが鳴りはっとする。

「あ、私、そろそろ仕事に戻ります」
「そうか、じゃ僕も」
「あの、薫樹さんはせっかくのおやすみなので、どうぞゆっくりしてください。清水さん、ごちそうさまでした」
「芳香ちゃん、またきてね」
「はーい。失礼しますー」

 軽やかに立ち去る芳香を見送り、しばらくすると薫樹も席を立った。
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